『和具の方言』について


『和具の方言』について
2008年(平成20年)に私家版として出版された『和具の方言』全3巻は、B5版で2268pとなっていますが、索引が別ページで加わっているため、総ページ数は2526pとなります。この大きな書物は、ほとんどの語の項目に方言会話の文例がついているという、方言辞書として他に類のない内容になっています。 
著者 鍋島泰は、平成2年から、まず方言用語をカードに抽出していきました。すでに小冊子としてまとめられていた『和具方言』(伊藤治著 昭和32年)や『和具方言帳』(谷口道雄著)から始まり、『三重県方言資料集 志摩編』(北岡四良編著 1958)等、『日本方言辞典』(全3巻 小学館 1989)、さらに、『日本国語大辞典』全14巻(小学館 2000~)『広辞苑』(岩波書店)もチェックをして用語カードを作成していきました。この他にも、三重県内の方言出版物など多くの資料を参照していきました。カードには、方言を使っている全国の地域名、意味、語源までが記載されました。この準備に2年間費やしています。
こうして準備した用語の50音順カードを持って、二人の老女に取材し、意味、用例などを確認し、同時にその内容をテープに録音し、新たな用語が出てきたら再度聞き取る、という作業がさらに2年間続きました。
著者は、鍋島医院での診察が終了した土曜日の午後と日曜日に、自宅から歩いて10分ほどの老人の集まる「和楽荘」へ通い、地元の古老に尋ねていきました。
取材の相手は、その当時90歳を超えていた 西岡としえ(明治33年生まれ)とその姪である 小村ハツエ(明治41年生まれ)で、共に和具生まれの和具育ちの元海女であり、そして、どちらとも格別の記憶の持ち主でした。泰がその二人に、カードに書かれた言葉を質問します。すると二人は、その言葉が使われていたかどうか、どのような意味か、どんな時にどのように使ったかなど、自由に思いのまま語ります。特に西岡としえの記憶は特別で、高く澄んだ声で次々に昔の出来事が、明確に、ユーモアたっぷりに、笑い声と共に語られていきました。時には同席していた老女たちも加わり、賑やかに昔の話が繰り広げられるのです。

 

 

 

 

話が一段落すると、次の言葉を聞いていく、その繰り返しを、時間の許す限り続けていきました。カードにメモを取ってはいましたが、話の全部は大きなカセットデッキでテープに録音していきました。 この聞き取りは、ほとんど毎週、2年間行われました。録音テープを原稿にして整理してから、不明な用語や新しい言葉を調べるため、再度聞き取りが平成8年から1年間行われました。録音は120分テープで200本ほどになりましたが、テープ起こしの作業の多くは、浜口幸保氏が担って行いました。 この『和具の方言』の大きな特徴は、ことばの説明の後に、このテープ起こしした会話文を、分かりにくいと思われる部分にカッコで標準語訳を付与して記載している点です。著者が「はじめに」で「会話の中には、その言葉の意味だけでなく、当時の生活の一端が伺える説明が有り、読み方に依っては和具の生活史としても面白いのではないかと思う。」と書いているとおり、とても興味深い読み物になっています。この会話部分を活用して、民俗学などさらなる研究が行われることを著者は希望していました。ぜひ幅広くご覧いただき、ご活用いただきたい。 なお、本書はわずかですが残部がありますので、希望の方はお問い合わせください。実費にて頒布いたします。

目次    全3巻

第1巻
序文
はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  1
三重県地図
鳥羽市・志摩市地図
明治四十五年頃の和具記憶図
海上からの陸地の目標(やま)図
志摩市・鳥羽市における市町村合併の経過・・・・・・・・・・・・・・  3
志摩町和具の地理的位置と方言域・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  4
総論  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  5
全項目一覧 索引  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  (1)
各論Ⅰ 五十音順方言事典 
あ行  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  26
か行  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  408
第2巻
さ行 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  763
た行 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1103

は行 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1548
ま行  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1828
や行  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2013
第3巻
ら行  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2117
わ行  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2134
各論Ⅱ  和具方言と三重県方言との関係  ・・・・・・・・・・ 2157
追補   会話の中に出てきた和具方言  ・・・・・・・・・・・・ 2160
お世話になった人  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2266
参考文献  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2267
あとがき  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2268